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傾斜地で強力アシスト! 日本の現場環境を考慮して開発された国産テザー、その実力は?

国内では、まだなじみが薄いウインチアシストシステム。山梨県で開かれた見学会では、新開発の国産ウインチアシスト機械を使った皆伐作業が実演され、国内での導入可能性に期待!

<目次>
1. 海外で普及、国内でも実演
2. 「日本版テザー」とは?
3. 【魅力①】 高強度ワイヤーで安定性アップ!
4. 【魅力②】 不安定な場所でも活躍
5. 【魅力③】 モニターを使ってトラブル防止
6. 【魅力④】 どんな現場で使える?
7. 【魅力⑤】 一括作業にも期待
8. 「日本版テザー」の進化に注目!

 

海外で普及中
伐倒の機械化促進で国内へ

傾斜地で作業をする重機を斜面上部から伸ばしたワイヤーでけん引し、機体の安定性を保持するウインチアシストシステム。海外では急傾斜地での重機による伐倒作業などで普及しているが国内では、まだなじみが薄い存在だ。

山梨県の実証試験地でこのほど開かれた見学会では、新開発の国産ウインチアシスト機械を使った皆伐作業が実演され、国内での導入可能性に注目が集まった。

コンパクトな
「日本版テザー」を開発

ウインチアシストシステムを搭載した重機は「テザー」と呼ばれ、その目的は傾斜地作業の機械化促進による労災防止と生産性向上の二点。

見学会を主催した住友林業によると、海外では1980年代後半に斜面上でのフォワーダ走行で初めて利用され、2000年代にハーベスタへ導入が広がった。

欧州、ニュージーランド、カナダを中心に800種類以上のテザーが存在し、ニュージーランドでは30度超の急斜面でもテザーと連結させたフェラーバンチャによる伐倒が行われているという。

住友林業はこうした海外の動向を踏まえて2017年に国産テザーの開発に着手。

日本キャタピラーと共同で2021年に0.45クラスの『CAT312F』(約1315t)をベースにした「日本版テザー」を完成させた。

けん引する作業機のサイズは国内の現状に合わせて0.45クラスを想定。昨年度から北海道、本州、九州の林業事業体の協力で実証試験をスタートし、本年度は山口県内のほか、今回見学会が開かれた山梨県北杜市でテザー導入による作業効率の変化などを確かめる実証試験を続けている。


住友林業が開発した日本版テザー

テザーには斜面上部に据えたアンカー用の重機から斜面下部の作業機に向けてけん引用ワイヤーを伸ばす方式と、作業機自体にウインチを搭載して山側へワイヤーを送り出し、上部の立木をアンカーにして自らをけん引する方式の2タイプが存在。住友林業が開発したのは前者のタイプだ。

同社森林資源部チームマネージャーの大沼直樹さんは「海外のテザーは25tや30tの大型のベースマシンが使われていて日本への導入は難しかった。そこで林道での設置や回送のしやすさも考慮し日本の林業で一般的に利用されているベースマシンのサイズに合わせたテザーを開発しました。

日本では油圧ショベルが広く用いられているため、作業機自体にウインチを搭載するタイプと異なり、ワイヤーを付け替えれば一台で現在保有している複数の油圧ショベルやホイールベースの機械に使えるのが特徴です」と話す。

高強度ワイヤー使用
自動操作で省力

住友林業が開発した日本版テザーは通常とは逆の外向きに付けられたバケットの爪を地面に刺してアンカーとし、機体後部に搭載したウインチから伸ばしたけん引用ワイヤーを高さ約8mのタワーを介して作業機に連結させる仕組みだ。

タワーの高さを確保することで、フリート角を確保し乱巻きを防止するとともに、真下に加わる力を増やすことができ、作業機をけん引する際の安定性を高めた。


外向きに付けられたバケットの爪を地面に刺して支持力を高める

ワイヤーは鋼芯タイプで直径18mm、長さ250m。

日本キャタピラーソリューション開発課シニアコンサルタントの川村敏昭さんは「鋼芯を圧縮して作られており約30tの破断強度があります。摩擦強度があり、キンクしにくいのが特徴です」と話す。

ワイヤーはチェーンとシャックルを介して作業機に連結されるため、簡単に着脱できる。


作業機とけん引用ワイヤーの連結部分

ワイヤーの繰り出しや巻き上げは設定に合わせて自動調整され、けん引力は傾斜や作業機の総重量などに応じて2t・4t・6t・8tの四段階で設定しており、適したけん引力の実証を重ねている。

大沼さんは「今回の実証試験地を含めて、これまでの実証試験では0.45クラスの作業機を使った場合、2tのけん引力の設定で十分に作業機の走行をアシストできました。傾斜が強い場所や地面がぬかるんでいる場合は4tの設定にすると対応できました」と話す。

専用リモコンで自動化


作業機のキャビン内で操作可能な専用リモコン

テザーを作業機に連結した後は、テザーのオペレーターは不要で、作業機のオペレーターが専用リモコンを使って一人で操作できる。自動モードに設定しておけば作業機の動きに合わせてワイヤーの繰り出しや巻き上げがシンクロ(同時応答)で行われるため、通常は操作も不要であることが特徴だ。

 

斜面でも平地と同じ感覚
動きは常にスムーズ

今回の見学会は山梨県北杜市の約1haのアカマツ、カラマツ混交林で開催。

地元の林業事業体「天女山」が皆伐と搬出作業を手掛ける現場で、9月下旬から10月末頃までの予定で日本版テザーの実証試験を続けている。

皆伐現場は幅40~70m程度、延長約150mで傾斜は20~25度ほど。見学会では皆伐地の上部に据えたテザーから伸ばしたワイヤーを0.45クラスのフェラバンチャに連結し、斜面上で伐倒や木寄せをする作業が公開された。

テザーから伸びるワイヤーに連結されたフェラバンチャは、「直滑降」の体勢で斜面を降り、途中の立木を斜面下方向に伐倒。進行方向脇の斜面に全幹で木寄せし、次の立木の伐倒に移っていく。


斜面の真下に向かって安定した姿勢で降りていくフェラバンチャ

斜面地を直線的に昇り降りしても機体が前のめりになったり、後ろにひっくり返りそうになったりしないため、フェラバンチャの動きは終始非常にスムーズ。走行中はブームやアームの角度が常に一定で、バケット爪を地面について機体のバランスを取ろうとする動きもなかった。


テザーで機体姿勢を保持された状態で、全幹の木寄せをするフェラバンチャ

天女山フォレストマネージメント事業部の葛原司部長は「ウインチで引かれる感覚もなく、傾斜地でも直線的に通りたいルートを通れる。斜面という意識を持たずに平地と同じ感覚で作業をできる点が一番のメリットです」と話す。

住友林業の大沼さんは「今回開発したテザーでは最大30度まで重機姿勢をアシストできます。それ以上の傾斜になると土壌や地形によって変わってきますが、30度台後半の急斜面でも安全に走行できた実績があります。

特にゴムクローラはぬかるんだ場所ではスリップしやすいですが、テザーによってスリップを防ぐことができますので、植生など土壌に及ぼす影響も減らせると考えます。」と話す。



モニターで
システム全体を確認


ウインチの巻き取り状況をモニターで確認。乱巻きなどのトラブルを防ぐ

急斜面で作業をする重機の体勢をワイヤー一本で補助するだけに、一見すると不安を感じてしまうウインチアシストシステム。しかし日本版テザーは海外製と同様に高い安全性を確保しているという。

作業機のキャビンに取り付けられたモニターでは、テザー側のウインチの巻き取り状況やバケット爪の刺さり具合などを常時確認できるほか、けん引用ワイヤーと作業機との連結部分に取り付けられた荷重計の数値も別のモニターで確認できる。

テザー本体が異常な動きをしたり、けん引用ワイヤーに過荷重が掛かったりした際の警報機能も備えている。

テザーを現場に据える際に、クローラの向きが斜面に対して正対ではなく、横向きでも設置が可能な点も、狭い現場では助かる機能だ。川村さんは「斜面に対してクローラが横向きになってもけん引力やテザー自体の安定度は変わらないように設計にしています」と話す。

皆伐や列状間伐に好適
作業道の作設不要

テザーの機能を生かせる現場のひとつが傾斜地での皆伐だ。

天女山は今回の実証試験で、フェラバンチャを使って斜面の上部から下部に向かって皆伐する方式をとっている。伐倒した木はフェラバンチャを使って全幹で斜面下部の土場に送り出し、ハーベスタで造材する流れだ。

葛原部長は「今回のような斜面の現場だと従来は等高線に沿って作業道を作設し、作業道に向けてチェーンソーで伐倒していました。しかしテザーの活用で作業道作設の必要がなくなり、平らなところを施業しているのに近い感覚になっています」と話す。


テザーと連結させたフェラバンチャによる皆伐施業が行われている実証試験地

今回の実証試験では、作業機が横方向に移動しても、けん引用ワイヤーが作業機のクローラに干渉しにくいように、フェラバンチャの下部に特注の連結用ブラケットを装着。

これにより作業機の横方向の可動角度が装着前の50度から二倍の100度に広がる見込み。

葛原部長は「一箇所にテザーを据えると約40mの幅に渡ってフェラバンチャで伐倒や抜根をしながら斜面を降りられるようになりました。感覚的には伐倒のスピードは従来の作業道を作設する方法と比べて3割くらいアップした気がします」と実感を話す。

丸太を積んだフォワーダ(最大積載量4300kg)をテザーと連結させて斜面を登下降させる試みも行っており「通常では走れない傾斜でも安定して走行できた。ただフォワーダ自体のフレームがテザーと連結する仕様になっていないため、接続方法の工夫が必要」(葛原部長)という。

一方、間伐現場でのテザーの使用について「列状間伐だと有効に使えると思いますが、定性間伐の場合はワイヤーが残存木に干渉するので難しいと感じます」と話す。

皆伐~地拵えの
一貫作業に期待

今回の実証試験地では根株や枝条を粉砕するベースマシン用のアタッチメント「ブラッシュクラッシャー」を付けた作業機(0.25クラス)をテザーに連結させた地拵え作業も試みられている。

ブラッシュクラッシャーは山梨県に本社を置く建機製品メーカーの日建が開発。

傾斜地での地拵えは作業道沿い以外ではマンパワーに頼るのが一般的だが、葛原部長は「テザーと連結させたブラッシュクラッシャーを使うことで、将来的には伐倒に加えて傾斜地での地拵えの機械化も実現させたい」と皆伐から地拵えへの一貫作業に期待を寄せる。


見学会では「ブラッシュクラッシャー」による根株や枝条の粉砕も実演された

さらなる改良
多機能化へ

 日本版テザーの市場投入はこれから。事業体への本格導入に向けては価格面が大きなネックになると予想されるため、住友林業は費用対効果のさらなる検証を続けるほか、多機能化にも力を入れる考えだ。

「日本版テザーは現状ではけん引以外は外向きバケットによる簡易的なバケット作業しかできません。集材用のサブウインチを追加するなどテザー単独で作業できる範囲を広げたい。将来的には搬器を使って集材する機能を搭載する構想もあります」(大沼さん)。

0.25クラスなど車両重量が軽い作業機に適したけん引力の設定も今後の課題という。

住友林業は来年度も実証試験を続ける考えで、参加する林業事業体を募っている。急斜面が多い日本の林業現場の機械化を今後どうアシストするかー。日本版テザーの進化に要注目だ。



取材・文/渕上健太

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