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林業者の取り組み

アイデア×ロスのない製造工程で稼ぐ! 木の付加価値を生み出すために必要なものとは

割り箸に枕、鉛筆、ぬいぐるみ、そして木のストロー? 今や多くの賞を受賞した震災復興の騎手は、木を無駄なく使い切り、木材価格を高くする商品を次々に生み出している。

木の価値を生み出すのは
わき出るアイデアだ

福島県いわき市の旧分校校舎にある磐城高箸。社名に「箸」の字が入るように、割り箸を製造する会社として設立されたが、現在の商品は割り箸だけではない。代表の高橋正行氏はアイデアを次々と出して多様な商品開発を行っているからだ。
 


磐城高箸の社屋。できるかぎり旧分校校舎のたたずまいを残す。

 
「もともと司法試験を諦めて、祖父が専務を勤めていた林業会社で働くつもりでいわき市にやって来たんです。でも会社の経理内容を知ったら、これはヤバイと(笑)」
 
いかに林業を振興し森を再生するかを考えた結果、やはり付加価値の高い木の商品を作り出すことだと思い至った。そこで選んだのが高級割り箸だ。
 


材料の地元産スギやヒノキは、市場価格より高めに買い取る。

 
中国から輸入している割り箸は1膳1円程度。これでは利益が出ないので、1膳50円以上になる商品を目指した。だが試験操業を繰り返して、いよいよ本番というときに起きたのが東日本大震災だった。余震で機械も損壊し、諦めかけた際にボランティアで駆けつけたデザイナー企画集団と出会う。そして生み出したのが「三県復興希望のかけ箸」である。福島、宮城、岩手の杉で作った義援金付きの割り箸だ。
 


割り箸や鉛筆の材料は、地元産のスギやヒノキを天然乾燥する。 

 
これが評判になって軌道に乗り始める。熊本大地震の際には熊本復興応援版も出した。さらに正月などに使う「祝い箸」、生後100日目の“お食い初め”に使う「おめでた箸」などを商品化した。こうした品は、企業などのノベルティ(記念品)として人気を呼び、数々のデザイン賞や土産物のコンテストなどで受賞。会社自体が震災復興のシンボル的な会社となっていくのである。



一方、割り箸づくりの過程では、検品ではねられる量が少なくない。高級割り箸だけに品質にこだわるからだ。それらの不良品を有効利用できないかと考え、考え出したのが「眠り杉枕」。箸を刻んで作ったチップを詰めた枕だが、杉からセドロールというリラックス効果のある香りを漂わせることが売りだ。この高級枕もヒットし、今では海外の寝具会社も取り扱うほどになっている。

そして会社を旧分校に移転して昨年開発したのが「旧校鉛筆」である。こちらはヒノキ材でつくる日本唯一の純国産鉛筆。削ると木の香がする。素朴な味わいがノベルティだけでなく、意外と多い鉛筆愛好家にウケて、いまや割り箸以上の人気商品になっている。


割り箸も鉛筆も、みんな手づくり。

 


鉛筆は黒の2Bだが、今年中に色鉛筆も発売する予定。

 
その鉛筆の製造中に思いついたのは、「芯を入れなければ木のストローになる」ことだ。そこで地元の日本酒メーカーと組んで現在試作中なのが、「お酒をこのストローで飲むと、樽酒の気分が味わえる」商品である。これは今年中に発売予定。
 
ほかにも製造過程で出たおが粉を詰めたぬいぐるみ「おがべこ」と「木粉さま」など、木材を余すことなく商品化している。アイデアを絞った商品と高付加価値化こそが、林業を儲かるビジネスに変えるのだろう。
 


従業員の皆さん。オフィスは「職人室」と名付けた。

 

製造工程で見るプロダクトたち

①製材


素朴な味わいの旧校鉛筆。新たなヒット作となった。2B鉛筆のほか、色鉛筆も試作中。また製作中に思いついた「木のストロー」を現在計画している。


割り箸は、ノベルティとして人気を呼ぶ。品質にこだわっているので厳しい検品を行い、色合いや強度の足りない箸は跳ねていく。

②チップ


商品にならなかった割り箸をチップにして詰めた眠り杉枕。スギの香りがして安眠できると人気で、海外大手の寝具会社が取り扱うことに。

③おがくず


おがべこ、木粉(こふん)様。割り箸と鉛筆の製造過程で出るおが屑を利用した。木粉様は、いわき高校史学部とのコラボ商品だ。

DATA

磐城高箸
福島県いわき市田人町南大平字坪内95-1
TEL:0246-65-0848


写真:松尾夏樹(大川直人写真事務所)
文:田中敦夫

FOREST JOURNAL vol.4(2020年夏号)より転載

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