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シカによる森林被害を食い止めよ! 初心者でも簡単・高捕獲『小林式誘引捕獲法』とは?

全国で相次ぐシカによる森林被害。捕獲による個体数調整は、林業関係者にはハードルが高い。しかし新たに確立された捕獲法が、ワナ設置や見回りの手間を省力化できるとして注目されている。

増える生息域と個体数
捕獲には「経験と勘」だったが……

シカによる森林被害面積は林野庁によると2021年度は全国で約3.5千ha。ピークだった2014年度の約7千haより減ったものの、野生鳥獣による森林被害面積の約7割を占める。背景にあるのが生息域の拡大と個体数の増加だ。

環境省によると1978年度から2018年度までの40年間でシカの分布域が全国で約2.7倍に拡大。その後も東北や山陰地方などを中心に生息域が広がっているという。

 

ニホンジカ
全国生息分布メッシュ比較図


出典:環境省/全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定及び生息分布調査の結果について

 

また、推定個体数(北海道を除く)は1989年度から2014年度までの25年間で約9倍の263万頭に増えた。官民挙げての駆除の取り組みで近年は減少傾向にあるものの、依然として高水準が続いている。

シカの生息数がなかなか減らない大きな要因が繁殖力の高さだ。林野庁の山下広さんは「メスのシカは2歳以降はほぼ毎年妊娠し、捕獲しないと年率約20%で個体数が増える。環境適応能力も高く、生息数を減らすには捕獲圧を強めることが必要」と話す。

シカの生息場所となる荒廃地や遊休地の増加、温暖化に伴う積雪の減少が繁殖を後押ししているという声もある。

 

シカ推定個体数(北海道を除く)


 

こうした中、林野庁は「狩猟者の高齢化等が進む中、森林被害を防ぐには林業関係者も捕獲に参加してもらう必要がある」と指摘する。

これまでの林業現場での森林被害対策は、防護ネット設置や忌避剤の散布が中心。これらに加え、「日常的に山に入っている林業関係者に捕獲に参画してもらうことで、さらに捕獲圧を強めて生息数を減らし、森林被害軽減につなげることができる」と期待する。

ただ、比較的取り組みやすいくくりワナによる捕獲でも、捕獲率を高めるには獣道の見極めやシカが足先を置く位置の正確な推定、シカに警戒されにくいようなワナの埋設といった職人的な勘と経験が求められる。

「技術習得を含めて、人員不足の中で林業関係者が捕獲作業に時間を割くことが難しいのが現状」(山下さん)だ。

 

森林被害の年間発生面積の推移


出典:森林・林業統計要覧

 



設置と見回りを省力化
餌を使って捕獲率UP!

そうした課題を乗り越え、初心者でも簡単にシカを捕獲できるように新たに考案されたのが『小林式誘引捕獲法』だ。

近畿・中国地方の国有林でシカの捕獲などに携わった経験がある林野庁職員の小林正典さんが7年ほど前に考案。YouTubeやSNSなどで紹介されて注目され、近畿・中国地方をはじめ全国で広がりを見せている。

小林式誘引捕獲法は、シカが好む餌をワナの周りに置いて誘い出し、捕獲率を高めるユニークな方法。

通常は山の中などの獣道を見つけ出してワナを仕掛けるが、小林式は車で簡単にアクセスできる山林や畑など道路に近い場所に餌を置いてワナを仕掛け、誘い出し、捕獲できるのが最大の特徴だ。獣道を使わないため、ワナの設置と見回り、さらに捕獲したシカの回収にかかる時間や手間を省力化できる。簡単に捕獲ができるため、経験則に頼る必要がないのだ。
 

小林式誘引捕獲法
 

基本手順
➀実施場所を決める
獣道以外の場所でOK。足跡などシカの痕跡が多い場所がおすすめ

➁ワナ設置前にまずは観察
餌を置き1週間ほど様子を見る(餌付け)

POINT!
●餌を完食!→ワナの設置可能!
●餌が食べられていない→周辺にシカがいない可能性が! 痕跡等を確認しよう
●痕跡アリ→餌が好みじゃないのかもしれない。餌の種類を変えてみよう
●痕跡ナシ→場所を変えて再チャレンジ

➂餌の完食を確認したらワナを設置

➃シカが掛かっていないか見回りしよう

➄捕獲したらすぐに処理を

餌の選び方
●牧草を成形したヘイキューブや米ぬかが多い。周辺農地で被害を受けている農作物を置くのも効果的だ。
●イノシシを同時に獲りたいときは米ぬかや、おからサイレージを、シカだけを狙う場合は、ヘイキューブを利用するとクマやイノシシなどの錯誤捕獲が大幅に減る。

 

小林さんは「シカの餌の食べ方を詳しく観察したところ、食べるときに口元の横に左右どちらかの前足を置く習性があることがわかりました。そこで獣道以外の場所でも、ドーナツ形に餌を置いて誘い出し、その中心にワナを掛けたら確実に前脚を捕捉でき、捕獲率が上がるのでは、と考えました」と発案のきっかけを話す。

一方、従来の設置方法の場合、ワナが作動したものの獲物が掛からない「空はじき」が起きることが少なくないが、小林式は、ワナの周囲に石を置くことにより、空はじきが少なく、捕獲率が高まるのも特徴。

また獣道に設置する従来の方法では、シカに警戒心を抱かれないようにワナの周囲に人の匂いなどを付けない注意が必要だが、「小林式の場合は餌の匂いが強いせいか、人の匂いは気にしなくても大丈夫」だという。

 



教えてくれた人

林野庁
国有林野部経営企画課 国有林野生態系保全室
環境保護企画係長

小林正典さん


林野庁
森林整備部研究指導課 森林保護対策室
保護企画班担当課長補佐

山下 広さん


取材・文:渕上健太

FOREST JOURNAL vol.16(2023年夏号)より転載

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