病害虫対策や経営的リスクの分散、SDGs貢献も!? 世界で進む新たな森林施業法とは
2021/10/06
森林ジャーナリストの田中淳夫氏による連載コラム。今回は世界中で新たに広がっている森林施業法をご紹介。現在「非皆伐施業」「樹種や樹齢の多様化」が世界の林業で取り入れられているという。なぜ、こうした施業法が取り入れられるのだろうか。考えられるメリットは?
世界で広がる森林施業法
その基本的な理念とは?
日本で人工林と言えば、同一樹種、同一樹齢の木々が生えている森林を思い浮かべるだろう。みんな同じだから林齢という言葉も使われる。そして伐採も主伐で一斉に行うし、跡地の造林も一斉にする。このような森づくりは、苗を植えるにしても伐採搬出するにしても効率がよい、木材生産力も増すとされる。明治時代にドイツから導入した近代林学に基づいている。
だが、世界の林業の趨勢は刻々と変化している。今回は世界中で新たに広がっている森林施業法を紹介しよう。
まずドイツやスイスなど中央ヨーロッパを中心に行われている近自然林業(CTNF)、アメリカやカナダで取り入れられ始めた生態的森林管理(EFM)や多様保残伐(VRH)、アフリカや南アメリカなど熱帯地域で広がる影響低減伐採(RIL)。またイギリスやフランスでも常時被覆林業(CCF)と呼ぶ森林管理技術が取り入れられている。
呼び方は、何やら複雑で難しく聞こえるが、その基本的な理念は簡単だ。まず大面積の皆伐は行わない(非皆伐施業)で森林がなくなった状態にしないこと、そして樹種や樹齢の多様化だ。具体的な手法は土地の事情に合わせて変化するが、一斉造林一斉伐採を行う林業ではない。また樹木の管理は年齢ではなく、その直径と生長量に準じる。最初からさまざまな樹種を混ぜて植える場合もあれば、後に広葉樹が侵入して混交化する場合、あるいは一定面積ごとに樹種・樹齢の違う植生がモザイク状に配置される場合もある。
なぜ、こうした施業法が取り入れられるのだろうか。まずはリスク低減のためだ。同じ樹種・樹齢ばかりの木々の森だと、病害虫が流行ると、森林全体が被害に合う。また風水害も森全体に及ぶことが多かった。だが多様な森にすると、病害虫は広がりにくい。また各々樹形や根の張り方が違うので、風の当たり方を分散させるほか、土壌内の根の広がり方も複雑になり、倒木や土砂崩れが少なくなる。
また経営的なリスクも分散できる。たとえばモミの木ばかりの森だと、モミ材の価格が下落したときに経営が逼迫する。しかしそこにマツやトウヒ、あるいはブナなど広葉樹があると、それらの材価は落ちていないことが多いから経営を安定させる。
そして生物多様性も高まるうえ、景観面でも好まれる。こうした特徴は、昨今広がっているSDGs(持続的な開発目標)に合致するだろう。
さらに最近の研究では、混交林の方が木材生産性を高められることを確認した。ヨーロッパの立地環境で樹木の平均サイズが同じである一斉林と混交林を比較してみると、混交林では、一斉林よりも平均16.5%も最大本数密度が高かったのだ。どうやら多様な木々が生えていると、樹木間の競争を緩和したり、成長を高め合ったりする相乗効果があるらしい。つまり混交林の方が木材生産量が高く、それは二酸化炭素の吸収量も多いことを意味するから、気候変動対策にもなるわけだ。
日本では、今も「一斉造林一斉伐採こそが林業の王道」という意識が強い。しかし世界の林業意識は変わってきた。林業は地球規模の環境に直結する産業だ。広い視野を持って柔軟になるべきだろう。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。