「森デリバリー」ってなに? 若手林業者が実践する”新しい林業”のカタチ
2019/07/31
面積の93%が森林だという東京・檜原村。その地に根を張りながら、"新しい林業"を模索し続けるのが「株式会社東京チェンソーズ」だ。ピーク時の4分の1にまで価格が下がったといわれる国産木材の再価値化に挑んでいる。
メイン画像:(左から)保育士から転身した細田 遥さん、代表取締役の青木 亮輔さん、アウトドアメーカーから転職した伏見 直之さん。
目指すのは
「持続可能な林業」
顔が見える新しい林業を目指し、ユニークな取り組みを行う株式会社東京チェンソーズ。2006年の創業当時は、地元森林組合からの委託事業が9割以上を占めていたという彼らが、下請けからの脱却を決意したのは2010年のことだ。
檜原村の一角に自社の森を所有。
「人材不足の林業界で働く人を増やすためには労働環境を改善しないといけない」と青木さん。株式会社 東京チェンソーズでは月給制、賞与ありなど、一般企業同等の労働条件を整備。
以来、時代のニーズに合った独自の在り方を追求。現在は、16人の社員を抱え、年商1億1千万を達成するなど、小規模林業会社としては、一定の成功を収めている。東京チェンソーズでは、どのようなビジネスモデルを描き、実現させているのだろうか。
「うちの場合、仕事を大きく分けると2つ。森林整備などの公共事業と、木材を伐採し、加工生産して販売するという6次産業化事業です。現在、6次産業化では、1本の木を丸ごと使い切るということを、1つのテーマに掲げて取り組んでいます」と話すのは、代表取締役の青木亮輔さん。
補助金に頼らない、持続可能な林業。それが、東京チェンソーズが目指す形だ。従来の林業では、山で伐採して搬送するのは、丸太の良い部分のみ。それ以外の細い部分や形の悪い部分、枝などは、売り物にならないため山に捨てるのが通例だ。それを、独自の商品づくりと売り先の開拓によって1本の木を余すことなく使い、売上を高めていくのが狙いである。
木を「1本まるごと使い切る」ことをテーマに、カタログでは1本の木から採れる素材をイラスト部位ごとに紹介。特徴を伝え、消費者側のニーズの掘り起こしを行う。
例えば、木の皮は着火剤として、薪と特製木箱とセットにしてキャンプ場へ。形の悪い部分は、スライスして積木などの小さな遊具に加工し、幼稚園へ。枝葉の部分は、リースの材料やイベント会場のディスプレイなどの用途で、フラワーショップへ。こうした多彩な売り先の開拓には、専用の軽トラックで木の出張販売をし、イベントなどに出店する「森デリバリー」事業が、ひと役買っているという。
軽トラックに木製の小屋を備えた「森デリバリー」。
着火剤付き薪セットは、キャンプ場を運営する「PICAリゾート」に納品。
「飛び込み営業で販路を拡大するのは難しいけれど、『森デリバリー』を通じて商業施設のイベント企画で主催者に商品を知ってもらえることで、商品化につながることも。また、現場ではどういうニーズがあるのか市場調査をすることができ、実際に商品開発にもフィードバックをしています」。
木材の価値を高める様々な商品開発。そのなかで、青木さんがもっとも可能性を感じている分野が木のおもちゃだ。
「国産のおもちゃの自給率はわずか数%。すごく伸びしろのある面白い分野なんです。檜原村が”木のおもちゃの村”になればいいと考えていて、自治体とも連動して動いているところ。木育の拠点にもしていけたらなと思ってます」。
枠に囚われない挑戦は、これからも続いていく。
DATA
東京チェンソーズ
東京都西多摩郡檜原村654
Tel.042-588-5613
撮影・文/曽田夕紀子