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【林業界は対応できるのか】建築業界の転換期。日本林業の「正念場」になるのはなぜ?

建築業界が大きな転換期を迎えている。“大型パネル”により、住宅のほとんどを工場で製造する手法の登場だ。これが「林業界の正念場」であるとは、一体? 森林ジャーナリスト・田中淳夫が考える希望の林業。

“大型パネル”の普及は
林業側にとって正念場

建築業界、とくに住宅建築が大きな転換期を迎えていることを知っているだろうか。

大工が現場に赴いて建材を組み立てるのではなく、工場で住宅の壁などを“大型パネル”として製造してから現場に運び、その場でつなぐだけ……という方法が注目されているのだ。現場では2日で1棟が建つという。登場してまだ数年だが、すでに年間1000棟あまりに拡大している。考案したのは千葉県のウッドステーション株式会社である。

なぜ、こんな方法を採用したのか。理由には、まず建築職人の減少と高齢化がある。建材の重量化も大きい。たとえばサッシなどは100kgを超える重さが普通になり、現場に人力で運び込んで設置するのが辛い。また防水や断熱施工なども必要となり、大工の手間は増えるばかりだ。それに対応できる職人が足りないのだ。

そこでクレーンや作業台のある工場で、建具も含めた壁面を大型パネルとして製造する。おかげで職人の負担は減り、作業効率も高まった。梱包材などゴミの処理も簡単になる。

なお、大型パネルと呼ぶが、ハウスメーカーの画一的なパネル構法の家ではなく、在来の軸組構法で一軒一軒違っている。つまり大型パネルはオーダーメイドに対応した家づくりだ。



さて、これは建築業界の変化の話で留まらない。

大型パネルの製造は、事前に設計図から必要な建材(主に木材)や建具の寸法仕様などの情報を取得して行うからだ。つまり林業現場と製材、プレカット、そして建築側の緊密な情報交換があって成り立つ。寸法どおりに製材・プレカットした建材が提供されて大型パネルは製造できる。なかでも木材は、梁など横架材を別にして、国産材を使用することを前提にしていた。

なぜなら“距離のメリット”のある国産材は、この方式で有利だからだ。設計仕様に細かに対応できる上、輸送にも時間がかからない。外材なら半年はかかってしまう。流通もカットできて、木材の買い上げ価格も高く設定できる。加えて木材は予約購入されるので、ウッドショックのような急激な価格変動の影響は受けにくい。

大型パネル工場の建設は、建築・工務店だけでなく製材、プレカット、そして林業まで参加した大型パネル生産パートナー会を設立して行われる。とくに大分県の佐伯広域森林組合は早くから参入して、地域の無垢材を使ったパネルづくりを行っている。森づくりから家づくりまで一環して関わり、木材の付加価値を上げていく戦略だ。



これまで林業側は、自分の山の木がどこで何に使われているのか知らないという「情報の断絶」があった。それが価格交渉を不利にしてしまい、また多くのロスを抱えて利益を細らせていた。

だが、大型パネル方式では各業界が情報をきめ細かく交換することを基本とする。川上側と川下側が連携しなくては成り立たない。それは林業にとって弱点を克服できるチャンスとなるだろう。

むしろ危惧するのは、林業側が大型パネルの製造に協力・参入しない場合である。もし及び腰で川下側の期待に応えられなかったら、大型パネルは外材だけでつくる(国産材は使わない)という事態になりかねない。

大型パネルの普及は林業側にとって正念場なのである。

PROFILE

田中淳夫

静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

著書

『獣害列島』


860円/2020年10月10日発売/イースト新書刊

獣害は、今や農業被害だけではない。シカやカモシカ、ウサギなどの野生動物は、再造林した苗を食い尽くし、またクマとシカは収穫間近の木々の樹皮を剥いで価値を下落させるなど林業に甚大な被害を出しているのだ。そして森林生態系を破壊し、山村から人を追い出し、都会にまで押し寄せるようになった。なぜ、これほど野生動物が増えたのか、日本の自然はどう変わったのか、この緊急事態に何ができるのか。現場からの声とともに届ける。


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