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「薪は主食ではなくスイーツ」─“暖かさ”だけでない、薪ビジネスに求められるもの

現在、暖房なら灯油やガス、電気ストーブなどがあり、使用は簡単でストーブおよび燃料の価格も安い。にもかかわらず薪ストーブを選択するユーザーがいるのはなぜか。彼らは薪が燃え、上げる炎のゆらぎに「癒し」感覚を求めることが多いという。

» 前編「高利益率を誇る注目の木材は「薪」!? 新たなビジネスモデルも誕生」はコチラ!

炎のゆらぎに「癒し」を求め
薪ストーブを選択するユーザー

薪ビジネスは、利益率も高くて林業家の副業となりうる。だが安易に参入しても、必ず成功するわけではない。その理由をある業者が教えてくれた。

「薪は主食ではなく、スイーツなんですよ」。

これは何を意味しているか。主食とは、いわゆる木材を素材として扱う用途で、建築材や家具材として使われる木材を指す。無垢の製材はもちろん、合板や集成材、また家具や建具への加工も含める。ある意味、王道の木材用途だ。

それに対して薪は、多くが薪ストーブの燃料だ。ところが暖房なら灯油やガス、電気ストーブなどもあり、そちらの方が使用は簡単でストーブおよび燃料の価格も安い。一方で薪ストーブの火付けは大変だし、灰などの処理のような片づけも楽ではない。

にもかかわらず薪ストーブを選択するユーザーがいるのはなぜか。彼らは薪ストーブを暖房のためだけに求めているのではない。薪が燃え、上げる炎のゆらぎに「癒し」感覚を求めることが多い。逆に言えば、その感覚に薪の価値を見出している。いわゆる「ロマン」を、薪を燃やすことに感じている。それを「スイーツ」と表現したのだ。

だから彼らの求める薪も、それに合致していなければならない。主食のように満腹になって栄養を吸収すればよいのではなく、スイーツの美味しさと同じような快感を求める。求める目的は暖かさだけでないのである。

「だから配達する薪は、品質や見映えを気にします。気づかずに一部が腐った薪や苔のついた薪を含めて届けてしまったことがあったのですが、クレームが入ってその後注文が来なくなりました」

もちろん木の一部が腐っていても苔がついていても、燃焼には問題ない。しかしスイーツとして燃える薪を眺めて楽しむユーザーには不興だったのである。



薪ビジネスが
木材需要や林業への関心増加に

さらに薪および薪ストーブの扱い方について、きめ細かなアプローチも必要だという。薪ストーブに憧れていたものの、実は薪の扱いが苦手な人もいる。そこで火付けのほか、薪のくべるタイミングやストーブそのものの手入れまで、ていねいに教えるそうだ。そうした営業努力をしつつ顧客をつなぎ止めねばならない。

何より必需品でないだけに、気まぐれである。高価な薪ストーブを設置したものの、数年経ったらまったく使わなくなる家庭も多い。やはり面倒なのだ。加えて住宅地の中で薪ストーブを使うと、煙や臭いなど苦情が出ることも多い。最近は煙がほとんど出ないような商品もあるが、苦情はゼロにならない。結果的に薪ストーブの使用を控えなくてはならなくなり、それは薪の消費もなくなることを意味する。

薪ビジネスには、そうした不安定さがある。常に新しい顧客を開拓する一方で、安定的に使ってくれるユーザーの確保も大切となる。

もちろん薪の品質も重要だ。高く売れる広葉樹原木の確保は大変だし、太さなど割り方、そして乾燥もしっかり行わないと苦情の元だ。チェックとともに工夫や努力も必要だ。

とはいえ薪の販売は、単に利益を求める仕事に止まらず、林業家が町の消費者と直接触れ合うチャンスでもある。それに薪を通して町の人に木材を好きになってもらうことは、木材需要や林業への関心を増やすことにもつながる。

薪ビジネス、林業にとって大切な分野なのかもしれない。
 

PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト新書)など多数。奈良県在住。

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