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サーキュラーエコノミーの構築へ。少花粉スギ品種のBECCS育苗システム実証実験を開始。

住友大阪セメント株式会社が、バイオマス発電所の排ガスを活用した育苗システムの実証実験をスタートした。“ネイチャーポジティブな企業”を目指す、同社の取り組みに迫る。

大手セメント会社が
「育苗」に挑戦したワケ

住友大阪セメント株式会社は、同社の栃木工場内に設置されたバイオマス発電所から排出されるCO₂をスギ苗木に貯留させつつ、CO₂を促成栽培に活用するための実証実験をスタートする。セメント業界としては、初めてとなる試みだ。

「セメント産業は、温室効果ガスを多量に排出する産業の一つなんです」と明かすのは、住友大阪セメント株式会社 セメント・コンクリート研究所 地球環境調和研究グループの稲津和喜さん。だからこそ同社は、これまでも温室効果ガスの削減と脱炭素社会の実現に向けた取り組みを推進してきた。

「弊社では2050 年までのカーボンニュートラル達成を目標に掲げていますが、今回の取り組みはさらにその先にある“カーボンネガティブ”の実現に向けた第一歩となればと考えています」。

実証実験の対象となる育苗システムは、二酸化炭素の回収・貯留技術であるCCSと、バイオマス発電を組み合わせたBECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage)システムの一種だと定義できる。より具体的には、同社の栃木工場への電力供給を担う木質バイオマス発電所の排気ガスをフィルターなどで浄化し、ダクトを通じて隣接する「育苗ハウス」にCO₂源として供給。苗木の促成栽培に活用する。


栃木県佐野市に位置する大阪住友セメントの栃木工場。2009年には木質バイオマスを主燃料とする発電所が稼動。再エネを推進することで、環境負荷の低減に努めている。

栽培するのは少花粉スギの苗木だ。「木材需要の逼迫と、人工林の少花粉品種への転換という2つの課題に、同時に貢献できればと考えています」と稲津さん。

 

最先端の育苗システムで
効率的な生育を実現

育苗システムの制御を担うのは、株式会社オムニア・コンチェルトの環境統合制御機器と、遠隔監視制御システムだ。温度や湿度、CO₂濃度、照度などを統合制御し、発電所から回収したCO₂を適切なタイミングと濃度で供給することで、苗木の生育に最適な環境を作り出す。加えて、バイオマス発電所のグリーン電力によって稼働するLED照明で特定の波長の光を照射し、長日処理や休眠阻害を施すことで、苗木の生育速度は従来の3倍程度(同社独自実証実験による)まで向上する見込みだ。まさにBECCSと苗木生産の効率化を一挙に実現する画期的なシステムだといえる。

ここで一度、株式会社オムニア・コンチェルトによる育苗システムの仕組みをおさらいしてみよう。農業分野で培った環境制御システムをベースとした同社の技術は、生育期間の大幅な短縮を実現するものとして、育苗業界でも大きな注目を集めている。その核となるのが、生育環境内のCO₂濃度を最適化するCO₂局所施用技術だ。実際に宮崎県の「林田樹苗農園」では、オムコンのCO₂局所施用コントローラーの導入によって、Mスターコンテナ苗の生育効率が大幅に向上したという。

林田樹苗農園での試験結果。写真左がCO₂施用区域の苗。写真右の非施用区域の苗との差は歴然だ。

住友大阪セメントとの実証実験では、育苗ハウスの管理の省力化を実現する遠隔制御システム「Sfumato(スフマート)」も導入。育苗作業のさらなる効率化が期待される。

Point 01
育苗ハウスの仕組み


バイオマス発電で排出されたCO₂が苗木の成長を促す他、両面型太陽光パネルを用いた日射制御及び蓄電、植物用LED照射管理、潅水制御、床下からの気流制御、サーモグラフィカメラによる温度管理などで、光合成に最適な環境を制御する。


育苗ハウス外観

 


育苗ハウス内観

 

Point 02
遠隔監視システム

 


ゲーム感覚な操作性の3D化された遠隔監視制御システム『スフマート』操作画面。ハウス内環境や機器の稼働状況がひと目でわかり、直感的に操作可能。

 

 

 

広葉樹や農産物への
応用も視野に

このシステムで生育した苗木は、近隣の山林への試験植栽を予定している。将来的には「針葉樹のみならず、広葉樹や農産物の促成栽培への応用も視野に、事業化を目指したい」と語る稲津さん。

「バイオマス発電所を核としたサーキュラーエコノミーを構築できれば、周辺地域の農林業の活性化はもちろん、新たな雇用の創出にも寄与できるはず。弊社は栃木県と包括連携協定を締結しましたが、今後は“ネイチャー・ポジティブな企業”として、地域の林業事業体や農家さんとも、より緊密に連携していきたいです」。

日本の森林をめぐる課題は、林業界だけで解決できるものではない。こうした異業種からの“森への参入”に今後も期待が高まる。

BECCS育苗システムの狙い

バイオマス発電所を基点とした多様な経済的価値創出=サーキュラーエコノミーの構築

着目課題➀:スギの少花粉化/木材需要への対応
着目課題➁:農林業の再生/地域の雇用確保

オムニア・コンチェルト社とタッグで「育苗」に挑む


都内で行われた共同記者発表に出席した、住友大阪セメント株式会社 常務執行役員 小堺 規行氏(写真左)と、株式会社オムニア・コンチェルト 代表取締役 藤原 慶太氏(写真右)。

 

 

問い合わせ

株式会社オムニア・コンチェルト
TEL:080-2356-3600

住友大阪セメント株式会社
セメント・コンクリート研究所
TEL:047-457-0185


文:福地敦

FOREST JOURNAL vol.21(2024年秋号)より転載

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