イノベーション

林業の新潮流「特殊伐採(アーボリカルチャー)」とは? 日本で大注目の新技術に迫る

近年、林業界で新たな動きとして広がっている「特殊伐採」。林業界の動きというより、林業従事者の中に挑戦する人が増えてきたというべきだろうか。これまで植林や草刈り、伐採などが中心の仕事だったが、新たな仕事とし始めたのだ。(前編)

アイキャッチ画像:アーボリカルチャー

 

特殊伐採とは何か。

簡単に言えば、高木を根元から倒さず伐採する技術である。人が樹上に登って梢に近い上の部分から少しずつ伐り、それをロープを使ってゆっくり下ろしたり、クレーンで吊り下げたりして安全に地面に下ろす。高所作業車のカーゴに直接人が乗り込み樹冠部にたどり着く方法もある。幹ではなく枝を伐る場合もある。そんな方法を取るのは、木の近くに建築物や送電線などがあって普通に倒すと破壊してしまう恐れがある、急斜面で伐採したら倒木が滑り落ちる……などのケースで行われるのである。

林業界だけでなく造園業界でも広がっていて、海外ではアーボリカルチャーという言葉で広がっている。アーボリは樹木、カルチャーは耕す・栽培する意味で、高木の取扱い術の一つとして、伐採だけでなく種苗の育成や剪定も行う。高く伸びた樹木では、脚立や梯子などでは届かない場合が少なくない。そこで人が木に登り、細かく枝などをチェックして伐る伐らないを決めて作業するのである。
 

なぜ、日本でこのような技術が
注目されるようになったか。

背景には、個人宅の庭や神社寺院の境内、あるいは街路樹や公園などの樹木が大木化していることがある。戦後植えた木が数十年経って大きく育ったからだ。すると枝葉が伸びすぎて周囲が日陰になったり、電線に絡んだりすることもある。樹勢が弱まり病害虫で枯れるケースも多発するようになった。

そんな樹木が急に倒れたり大きな枝が折れて落ちたりしたら、周囲の建物や人などにどんな被害をもたらすかわからない。所有者は賠償請求される恐れもある。あるいは落葉が多すぎて掃除が大変という事情から伐りたい、しかし周辺は住宅で普通に倒せないため処置に困ることが少なくなかった。

しかし、高所作業車を樹木の近くに寄せられない場所も多いし、手間や経費が大きい。そこでロープを使って人が直接木に登り、梢や枝を伐採していく手法が求められるようになったのだ。

もう一つの理由として、日本の林業従事者を悩ませている内的な問題がある。

現在の林業は、重機で伐採・搬出することが増えた。求められる技術も土木作業のような道づくりや重機の操縦になりつつある。一方で木材の用途は、建材から合板やバイオマス発電燃料用など材質を問わない分野が増えてきた。山の木を全部伐採してしまう皆伐も進んでいる。

その場合は、あまり木の質を選ばないので乱暴な伐採でも許される。しかし自然の中で樹木と向き合って働くことを期待して林業に就いた若者には、思いと違うと悩むことも多いという。

加えて事故も多い。今の林業現場では、安全に関する指導が軽んじられる傾向がある。実際、重大事故が頻発している。それなのに給与などの待遇は悪い。きつくて危険な仕事なのに報われない。そのため、せっかく就業しても5年以内に約半分が辞めてしまう。

そこに登場した木登りによる伐採は、樹木一本一本と向き合う仕事だ。木を登る楽しさに加えて、樹上作業におけるロープワークテクニックなどを磨く喜びがあり、安全管理もわりとマニュアル化されてしっかり指導される。また単に木を伐るだけでなく、剪定して景観をよくすると満足感が湧く。困っていた依頼者の喜ぶ声を直に聞ける。総じてモチベーションが高い。そして作業量に比して収入も悪くない。仕事として魅力的なのだ。
 
今後、林業者にとって特殊伐採の仕事は一定の割合を占めるようになるだろう。
 

 

PROFILE

森林ジャーナリスト

田中淳夫


静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。

著書

『絶望の林業』


2200円(税別) 2019年8月5日発行・新泉社刊

日本の林業は、根底からおかしいのではないか。長く林業界をウォッチし続けていると、“不都合な真実”に触れることが多くなった。何から何まで補助金漬け、死傷者続出の現場、相次ぐ違法伐採、非科学的な施策……。林業を成長産業にという掛け声ばかりが響くが、それは官製フェイクニュースであり、衰退産業の縮図である。だが目を背けることなく問題点を凝視しなければ、本当の「希望の林業」への道筋も見えないだろう。

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